評者・東京都立大学准教授 佐藤 信
飛行機が現在のように一般化する前、港は未知への扉だった。島国・日本であればなおさらである。
国家を超えたヒトやモノの動きに注目する歴史学の動向もあって、「鎖国」以前については研究が著しく進展した。閉鎖的だと考えられていた日本列島の人々の海外との活発な交流が、そこでの港の重要性が、明らかにされてきた。
開港地からヨットハーバーまで 多様な政治が展開される港町
他方、「開国」以降の港についての歴史研究は、とりわけ同時期の鉄道と比したとき、遅れている。著者は前著『海港の政治史』以来、こうした停滞を破ろうとする若手研究者たちを牽引する存在である。
開国以後の港町というと、舶来の文物が集う印象がある。例えば、開港50年を記念してつくられた横浜市歌は「飾る宝も入りくる港」と謳(うた)っている。しかし、江戸・東京からほど近い横浜ならいざ知らず、入ってきた文物を内地に流通させるためには国内交通、なかでも鉄道との接続が不可欠だ。また、船舶が大型化すると港の深さも問題になる。
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