本稿はKDDIが運営するサイト「MUGENLABO Magazine」に掲載された記事からの転載
MUGENLABO Magazine では、ブロックチェーン技術をもとにした NFT や 仮想通貨をはじめとする、いわゆる Web3 ビジネスの起業家にシリーズで話を伺います。Web3 についてはまだバズワードな要素も含んでいるため、人によってはその定義や理解も微妙に異なりますが、敢えていろいろな方々の話を伺うことで、その輪郭を明らかにしていこうと考えました。
4回目は、日本で初めてとなる Web3 に特化したスタートアップインキュベーター「Fracton Ventures」を立ち上げた亀井聡彦氏です。Web3 起業家に投資する「Next Web Capital」にも参画されました。日本から、または、日本人起業家の手で世界に冠たる Web3 スタートアップを輩出すべく奔走されています。
日本のローカル市場を最初のターゲットに選ぶことが多かった従来のスタートアップと異なり、Web3 は創業した最初の日(Day1)から世界市場が相手になることが多いです。市場は大きいですが競合も多いことを意味するので、事業戦略にはユニークなアプローチが求められます。新しい分野であるため、世代やバックグラウンドもこれまでの起業家と異としています。
スタートアップや起業家を支援する立場から見た、Web3 ビジネスの特徴や動向について、亀井さんのお話を伺いました。
Fracton Ventures について教えてください。
左から:赤澤直樹氏、鈴木雄大氏、亀井聡彦氏。Fracton Ventures では、3人が共同で代表取締役を務める。 Image credit: Fracton Ventures
亀井:Fracton Ventures は現在、「プロフェッショナル・ガバナー」として活動しています。これからどんどん DAO(分散型自律組織)が増えていく中で、トークンによるガバナンスが増えていくと思うんですけど、そこに対して、ある種プロの視点でいろんなガバナンスに参加したり、設計をちゃんと工夫したり、そういうことを言える存在になりたいと考えています。
創業メンバーを紹介すると、僕がコレクティブインパクトをかがけるMistletoeや、シードアクセラレータだった MOVIDA JAPAN、IoT 特化ファンドのABBALab出身で、VCやスタートアップ支援のバックグラウンドがあります。鈴木(雄大氏)の前職はプロトスターというインキュベーションコミュニティの第一号社員で、その後マネーパートナーズという金融会社でクリプトをがっつり経験しました。赤澤(直樹氏)は以前、ブロックチェーンスクールの FLOC でエンジニア育成の先生をやっていました。
直近では、日本初のWeb3特化インキュベーションプログラムの活動実績があります。僕らが VCとしてのバックグラウンドがあるので投資していくことを考えたんですが、日本で Web3 で起業家ってなかなかいないと思ったので、エコシステムの感覚をつかもうと思ってやったんですよね。
ただ、蓋を開けてみたら20チーム以上からの応募がありまして、当時(半年前)僕らはまだまだアイデアレベルで起業していきたいっていう人がいっぱい集まると思っていたら、もう海外に出てプロジェクトやっていますって人も割と多くて、そちらに寄せるプログラムにせざるを得なかったんです。
その結果、(プロジェクトがまだ形になっていない)アイデアレベルの起業家はお断りさせていただいてしまったんですが、8〜9社はすでにプロダクトを作り出して、もう海外に移住をされてる人とか、シリアルアントレプレナーなどが集まったプログラムになっています。国内から海外に出ていくチームのブリッジになることを目指しています。
2021年のインキュベーションプログラムでは、9プロジェクトが採択された。Image credit: Fracton Ventures
<採択プロジェクト一覧>
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実は、InsureDAOというチームを創業からずっと応援していて、インキュベーションプログラムのプロトタイプみたいな形で支援をしていたんです。彼らは日本チームだけどシンガポール法人で、SAFT(Simple Agreement for Future Tokens)でトークンによる資金調達をして100万米ドルをUSDC(米ドルのステーブルコイン)で集めました。最近テストネットやメインネットをローンチしました。
HiÐΞさんは国内で結構使われてたり、LOCK ONっていうトレーディングのツールを手掛けるとこだったり、ConataさんというMetaaniをやってるプロジェクトだったり。UXD Protocol はかなり先を行ってて、もはやこのフェーズじゃないチームなんですけど、彼らもドバイ法人でSolana 上のアルゴリズミックなステーブルコインを作ったりしているチームです。
Playpalは GameFi やってたり、ResearchDAOはピボットして現在はFantom上でステーブルコインをやっています。
また、投資家勢として、韓国のHashedやシンガポールのIOSG Ventures などに協力いただいてます。海外からも関わってもらっているのは、日本だとまだまだ知見が少ない中、例えば韓国などはクリプト業界ではかなり力もあるからで、彼らの知見をもらいつつ進めました。
メンターはほとんど日本人なんですが、ステイクテクノロジーズの「Astar Network」を作っている渡辺創太くんとか、MissBitcoinの藤本真衣さんとか、DeFi系で初期から活動されていたKyber Networkの堀次泰介さんとか、ENS(Ethereum Name Service)のコア開発者の井上真さんとか、そういう人たちにも入ってもらってます。
渡辺創太くんや一緒にやっている石川駿くんは、トークンも出したり海外 VC から資金も入れてたりと、そうしたノウハウをめちゃくちゃ持っています。これらのノウハウはちゃんと次の人たちにも伝えていかねばなりません。かつ、たぶん創太くんたちの時代と今の時代や市況はまた少し違っているので、戦い方もちょっと違います。ブロックチェーン自体も増えてエコシステムも増えたし、その上で動くプロトコルも DeFi だけじゃなくて NFT やメタバースなど増えてるし、かつそれをどこでやるかって言うとシンガポールなのかドバイなのかみたいなので、もうめちゃくちゃ知見が分散してるんですよね。
インキュベーションプログラムのデモデイの模様。9つのチームが選ばれた。
Image credit: Fracton Ventures
インキュベーション以外では、どんな活動をされているのですか?
亀井:もともと、Fracton を立ち上げたビジョンとして、エコシステムに貢献したいというのと、そのために自分たちも何かやりたいという背景があります。後者の視点で言えば、もっとマスアダプション(一般普及)しないと Web3 は広がらないと考えています。クリプトって、なんかクリプトの人たちだけで内輪で盛り上がっちゃう傾向があるので、もっとマスに拡大させるベクトルの動きをしたいねと。
Image credit: Meta Tokyo
今、クリエーター×Web3、ミュージック×Web3、スポーツ×Web3の大きく3つを共同プロジェクトとしてやってます。その一つがMetaTokyoです。きゃりーぱみゅぱみゅさんが所属するアソビシステムさんと、エンターテックをやられている鈴木貴歩さんのParadeALLと去年共同プロジェクトを動かし始め、最近法人化しました。デジタル不動産、つまりメタバース空間の土地の開発や、その上でのコンテンツやプロジェクト開発をしています。
メタバースでは、渋谷109 が The Sandbox と提携し「SHIBUYA109 LAND」を展開するような動きがありますが、僕らは Decentraland でやっています。Decentraland のコアチームとも会話しながら土地を持っていて、その土地の上でミュージアムみたいなものを作りました。
ミュージアムで何やってるかって言うと、例えば、クリプト由来のジェネレーティブアート系NFTとコラボして展示会やったりとか、Generativemasksという有名な日本発のプロジェクトがあるんですけど、そこと展示会やったりとか。
さらに、原宿の「Kawaii」文化では、「FRUiTS」という原宿のストリートスナップがありましたが、彼らとコラボして当時の FRUiTS を NFT 化して出したりとか、「MetaTokyo Pass」を作って、MetaTokyo Pass ホルダー限定のコンテンツやNFTのエアドロップといったものを今企画して動いてます。
MetaTokyo は国内と海外のブリッジになるようにしたいので、どんどん海外のコアのチームと繋がって、日本のプロジェクトをどんどん海外に輸出したいと考えています。東京カルチャーをちゃんとオーセンティシティ(本物らしさ)を持ちながら出していきたいんです。結構海外、例えば、フランスのアニメもそうですけど、日本のカルチャーなのに海外の人たちの方がうまくやられている例もあるので、そこはちゃんと日本発でやりたいと思っています。
MetaTokyo が DAO ではなく株式会社の形を取っているのは、事業としてビジョンを追求するということですか?
亀井:おっしゃる通り、ここはやはり資金調達してちゃんとレバレッジかけてやっていきたいと考えていて、日本をベースにビジネスとしてトークンを出してやっていくのは難しいので、株式会社としてやっています。
ただコミュニティは、トップダウンにするとこういうのって面白くないので、3社が共同で株を持っていて、そこをうまくバランス取っています。Fractonとしてはちゃんとコミュニティ主導でやろうとしています。今、ちょうど資金調達に動いています。
「FRIENDSHIP.DAO」
ミュージック×Web3では、先ほども申し上げた鈴木貴歩さんの ParadeALL と、サカナクションとか BUMP OF CHICKEN とかを手がけられているHIP LAND MUSICと「FRIENDSHIP.DAO」というプロジェクトを立ち上げ、音楽 DAO の開発もしながら動いているところです。
スポーツ×Web3では、北島康介さんとご一緒しています。北島さんは「東京フロッグキングス」というプロ水泳チームのGMをやられています。そもそもインターナショナル・スイミング・リーグ(ISL)っていうグローバルなプロ水泳リーグがあるんですけど、それにアジアから出ているのは唯一、東京フロッグキングスだけなんです。
ISL もまだそこまで有名ではないし、生まれて2〜3年の新しいリーグなんです(編注:2019年の設立)。このリーグとこの東京フロッグキングスを、せっかく新しいリーグだし新しいチームだからこそ、もっと今風のテクノロジーとか仕組みを使って盛り上げられないか、という相談をいただいて意気投合しました。
スポーツは今はまだスポンサービジネスだし、全てが選手ドリブン、選手ファーストというわけではありません。Web3 を使って、選手がオーナーシップを持った形で面白い取り組みをできないか、みたいなことを模索しています。
北島康介氏と「Fracton Ventures」「ParadeAll」のメンバー
Image credit: Fracton Ventures
まとめると、Fracton Ventures は、インキュベーションでスタートアップ支援、エコシステム支援、共同プロジェクトをやっている感じです。
国内でもこんなに早くWeb3やDAOの波が来ると思ってなかったんですけど、昨年末から結構いろんな業界でWeb3って言われ出しました。僕らは日本向けにというよりは、海外のエコシステムにちゃんと日本人の関わるチームが入れるようにしないといけないと思ってるからこそ、もっと海外活動をしていかないとなって思ってるフェーズですね。なので、日本のエコシステムのボトムアップよりはトップを伸ばす方にどんどん注力しようとしています。
Fracton Ventures は先日発表された、Next Web Capital にも参加されていますね。
Next Web Capital の Web サイト
Image credit: Next Web Capital
Fracton自体はベンチャーファンドでもVCでもなく、インキュベータなので、お金も投資しないし僕ら自身も調達も何もしてないんですよ。Next Web Capital(NeW)の方はお金を取り扱って、ちゃんと資金サポートもします。
これもまさに Stake Technologies の渡邉創太くんや石川駿くんとか、僕らと近い世代のCryptoAge をやってた元 East Ventures の大日方祐介くん、ヘッジファンド出身のセキケイくん、この同世代のメンバー7人で、7人の侍じゃないですけど、自分たちがグローバルで第一線を張るからこそ生じる現場の知識やノウハウを次の起業家にも提供していくための取り組みをやっています。
お金の調達もしていて1,000万米ドルぐらい集めていて、WiL、East Ventures、F Ventures、bitbank からも参画していただいてアクセラレータプログラムみたいなものを今やってる感じですね。
Fractonとしてはインキュベータっていう強みがあるので、インドのインキュベータとかアクセラレータとか結構いろんなところと組み出してやっていて、そういうグローバルのインキュベーションネットワークみたいなのを作っていこうとしている最中です。
Image credit: NEAR Blockchain Accelerator
以前、NEARという、ブロックチェーンによるインドでのアクセラレーションにアクセラレータパートナーという形で入って、講義をしました。なぜインドでやっているかというと、Fracton の4人目のメンバーが元 Mistletoe のメンバーでインドにいるんですよ。初期から NEAR でそれをやっていたおかげで、インドの Web3 勃興のタイミングにいられて、インドの有名なインキュベーターやVCとも仲良くさせてもらっていて、なぜか Fracton がインドの Web3 のコアにすごく近い存在になったんですよ。Woodstockはインドで有名な VC なんですけど、そういうところから LP どうですかみたいな相談をもらったり。インドだと、Polygon の Co-Founder の Sandeep 氏や Coinbase の元 CTO の Balaji Srinivasan 氏とか、何人かクリプト界の有名人がいるんですけども、彼らにも近いルートで、Fracton は日本チームとして存在感を出せ始めています。
最後に
「Web3 こそ、真のインターネットだ」と表現する人がいます。特定の中心を持たず、分散されたネットワークであるはずのインターネットでしたが、これまでの社会システムの上に形成されているため、物理的にも精神的にも、中央集権的なコンセプトから完全な脱却を図ることはできませんでした。
Web3 が従来インターネットとは違う形で進化すれば、新たな恩恵をもたらしてくれるでしょう。分散型という特徴ゆえ、スタートアップの出自が反映される地域独自性や強みは犠牲になりがちですが、そんな中でも、日本らしさ、日本人起業家らしさを見出しつつ支援されている点に、Fracton Ventures と日本の Web3 スタートアップの可能性を感じずにはいられません。
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